
”ハメ撮りを映画にしたい”
ある映画が21年6月に公開された。監督であり主演を務めたイケダ英彦氏は四肢軟骨無性軽症:通称コビト症の身長112cm。さらに、ステージ4のスキルス性胃がんが発覚。何も治療しなければ「余命2ヶ月」と宣告され「自身の最期にやり残したことをやりたい」と考えたのがハメ撮りだった。
「もし僕が死んだら公開して欲しい」
イケダの遺言通り、イケダのハメ撮りを写した映画作品は21年6月に東京で公開された。今回はイケダの20年来の友人であり本作プロデューサーの真野勝成に作品について語ってもらう。

脚本家・真野勝成
ドラマ「相棒」や映画「デスノート Light up the NEW world」などを手掛ける脚本家。「愛について語るときにイケダの語ること」のプロデューサーを務めた。
ハプバーから始まり… ハメ撮り素材”30時間”
ーー映画撮影のきっかけを教えてください
真野:ある日、イケダから『ステージ4の癌になっちゃって、治療をしなければ2ヶ月で死ぬらしい。治療はするけど、かなり早い時期に死ぬ可能性が出てきた』と言われました。そこで、今までやれなかったことをやりたいからまずはハプニングバーに行きたいと(笑)
ーーハプニングバーですか
真野:SMの女王様がプライベートで来てて、イケダは話しかけて仲良くなりエッチしていました。同じ部屋で他2組がエッチしてたんですけど、マジックミラー越しに向こうからみんなが見てるわけだし、すごい世界観だなって僕1人で座って観てましたね。
ーーそうですよね。すごい世界観(笑)ハメ撮りもイケダさんがやり残したこと?
真野:あいつAV好きだったんで『自分でAV撮りたい』って言い出して、鶯谷のラブホで初めてハメ撮りしました。その直後に会ったんですが、”ハメ撮りがあるんだったらそれを軸にして、映画になるんじゃないの”って話をお互いにしました。そのときイケダは闘病生活入ってたんで、映画を観まくってたんです。自分の好きな映画とハメ撮りを融合させたのが、この映画みたいな感じですね。
ーー撮影期間と抱いた女性の数は?
真野:約2年でたぶん15〜16人の女性と撮影していました。最初はイケダから聞いて正の字をつけてて、撮影していないのを含めたら相当いるんじゃないかな。撮影素材は60時間ぐらいですが、そのうち半分がハメ撮り。

ーーハメ撮り長くないですか(笑)
真野:長い(笑) 2カメとかで撮っているので。
ーーいろんな角度から?
真野:そうそう。十数人を2時間ぐらいずつくらいかな。イケダは素でセックスしてるわけではなくて、綾野剛さんの真似してるんですよ。
ーーえ!気付かなかったです
真野:キスの仕方とか、綾野剛さんのラブシーンを見て『あんなに優しい乳首の吸い方があるのか』って感心して、それから意識していたみたいです。キスとかも陶酔してるじゃないですか。
ーー乳首めちゃくちゃ撫でてましたね
真野:そうそう。隙あるとすぐ乳首を触ってますよね。死がかかっているから、一時たりとも時間を無駄にしたくないんでしょうね。
愛と性に向き合い続けたイケダが好んだプレイ内容

ーーイケダさんが好んでいたプレイは?
真野:シンプルだと思うんですけど、フェラチオは大好きって言ってましたね。
ーーフェラチオシーン多かったですよね
真野:『粘膜ってなんで気持ちいいんだろうね』ってばかなこと言ってたからね。あと、あいつは『裏モノJAPAN』って雑誌が大好きだったんです。
ーーめちゃくちゃ面白いですよね(笑)
真野:『裏モノJAPAN』ってライターの人とかが、面白いことをトライして書いてるんですけど、イケダも色々試したりしてましたよ。例えば”足の指を舐めると女の人はすごい感じる”とか。
ーー裏モノを実践していたんですね
真野:書いてあってそれを試してたんですけど、イケダって抗がん剤飲んでるじゃないですか。だから、免疫めっちゃ下がってるんですよ。
ーーたしかに
真野:足の指って、人間の体の中で一番雑菌が集まる場所らしいんですよ。『イケダさんそれは舐めちゃダメだよ』って言ったけど実践してました(笑)
ーーそうなんですか
真野:あと裏モノを見て、障がい者の方と障がい者に理解がある人のお見合いパーティってのがあるって知って。実際、イケダと2人で僕は付き添いでお見合いパーティーに行ったんですよ。本当に男女数十人ずつ集まっていて、1人1分くらいずつしか喋れないですが、順番に喋りました。そこでも裏モノ読んで来てる男いるなって感じましたよ。
ーーすごい。裏モノがイケダさんの教科書になっていたんですね
真野:最後の2年間は毎月熟読していましたね(笑)
公開直後から異例の反響「イケダコール」

ーー映画公開も当初は1日限定だったとか
真野:20年12月に『アップリンク渋谷』で1日だけ上映イベントを開催したら、チケットが1日で sold outしたんです。
ーー1日で!
真野:そのときは50人とかだったんですけど、話題になって評判も良かったんで正式に劇場公開することになったんですが、実際公開したら、初日から2週間全部満席になりました。ミニシアターとしては、ヒットしまして結局6週間公開できましたね。
ーーそのあと地方ですか?
真野:地方も舞台挨拶して回ったりして、昨年の12月に東京のアンコールやったんですよ。そしたらまた2週間満席になったんです。異例のロングランになっています。
普通なら始めて2週間でお客様来なければそれで終わっちゃうのが常ですが、映画自体は力がありますし、観て何の縁もなかった人が、みんな『イケダイケダ』って呼んでくれてすごい応援してくれるんですよ。その方たちがいるからまた東京で2週間公開できます。
ーー東京でやるのは3回目
真野:今まで吉祥寺だったんですけど、次は下北沢。K2という新しい映画館です。
ーーちなみに、タイトルは誰がどういう風に決めたんですか
真野:もともとイケダと僕はセックス、ハメ撮りを中心にした映画っていうのを考えてたんですけど、ずいぶん僕とイケダが愛とは何ぞやと結構語ってるじゃないですか。そこで、僕の好きなレイモンド・カーヴァーの『愛について語るときに我々の語ること』っていう小説があるんですが、そこからとりました。
ーーなるほど
真野:愛について語る、語っている映画で、これを観た人が自分のある種、心の秘密みたいなのを喋ってくるんですよ。
それはセックスに関することだったり、愛に関することだったり、病気に関することだったり、なんかそういう妙な高揚のある映画なんです。やっぱりイケダがさらけ出して見せてるからだと思うんですけど。
映画を通して伝えたいこと

ーー実際に映画が公開してイケダさんに伝えたいことは
真野:本人は死んだら無になるって言ってたんで、伝えたいこととかはないんですが、死んだ時はそこまで悲しくなかったですね。
ーーそうなんですか
真野:でも映画が公開されて反応があると、感慨深いですね。少し感傷的にはなったりします。
ーーなるほど
真野:素材が7年前とかなんで、記憶に残ってないこともありましたけど、映画になって見直すと自分とイケダがこういう事喋ってたんだなーっていうのを思い出します。
真面目な話ですけど、イケダはハメ撮りをしている自分が、”普段は真面目な公務員であと障がい者で、ちっちゃくてかわいいって言われる自分が”こんなに悪いことを最後にやってたんだぜ”っていうことが、モチベーションで映画を作ったんだと。実際映画になってみたら、全然そんなところよりも、女の子に告白されて、受け止めきれないちょっとこじらせてる部分が映っちゃったりして。
でもそこの部分が、共感を呼んで映画が今でもロングランになっているので、愛するってことがよく分からないって思ってる人に観てもらいたいです。
ーー愛することが分からない人に観て欲しいのですね
真野:でもやっぱり死ぬってなったときに、ハメ撮りにして映画にするっていうのはちょっと異常かもしれないけど、もしかしたら内緒でやっている人もいるんじゃないかな。以前、映画を観に来てくれたお客さんに『ハプニングバー行ったことある人いますか』って、聞いたら結構手が上がったんですよ。
ーー意外ですね
真野:自分が乳がんになった女性が、乳がんの宣告されたときに、まず『私はハプニングバーに行ってみたい』って思ったんですって話すお客さんもいたんです。だから意外と、みんなセックスに関しては普段は押さえつけてるんだけど、もしかしたら自分が知らない未知のすごい世界があるかもしれないっていう幻想もあるんじゃないかな。
ーーはい
真野:死ぬってなった時に、それをもし試せるなら試したいって思うのかもしれない。イケダはそれで冒険をしたら、一本の映画ができた。イケダが言ってたのは、『死ぬってなったから思い切ったことができると言えばできるんだけど、でも、今までの人生で築いた土台からしかジャンプできないから、やっぱりいろいろもっと経験してれば、もっと飛べたかもしれない。死ぬからってなんでもできるわけじゃなくて、気になっている子がいたら告白できるってわけじゃなくて、それはやっぱり抑えちゃう』って。
ーー普段からの土台作りが大切だと言うことですか
真野:いつ死ぬかわかんないんでね、楽しいこと、やりたいと思ったことはやっといたほうがいいです。
最後に
”性と死”が描かれた「愛について語るときにイケダの語ること」は”愛とは一体なんなのか”そう考えずにはいられない異色のドキュメンタリー映画だった。
【公開情報】
『愛について語るときにイケダの語ること』
東京下北沢
シモキタ-エキマエ-シネマ「K2」
期間:4/29~5/12
同時上映:『マイノリティとセックスに関する、極私的恋愛映画』
『愛について語るときにイケダの語ること』
配信情報
期間:4/16~5/15
『愛について語るときにイケダの語ること』
長野県上田市
上田映劇
期間:5/21~5/27
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